2015.01.01

名シェフが「心斎橋」を選んだ理由

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取材NGの新店。本日、数々の謎を明かします。

2014年、11月。震撼のフレンチがオープンしていました。その人“田中洋志”統括料理長は、知る人ぞ知る名腕で、この店「Entr’acte」は、これまでの定石を超えるバル業態。なにもかもが一筋縄ではいかないのです。なぜ、こんな稀代なる組み合わせが心斎橋で叶ったのか?その謎もひとつひとつ、解明していきましょう。

統括料理長・田中洋志氏。生まれも育ちも修業も大阪。大阪にある数々の星付フレンチを研鑽の場に、当店に来るまでは、世界最多の星保持者である、かのフランス人シェフの下でスーシェフとして腕を揮っていたほどの逸材。型に捉われない独創的な発想で、定石もルールも悠々と越えてゆきます。取材お断りの当店が快く応じてくれたのは、そんな田中シェフの気まぐれだったのかもしれません。

取材当日。調理方法を見せましょう…という奇跡のような田中シェフの計らいで、素材&食材がズラリと厨房に並んでいました。オーダーラッシュには10個の火口が同時進行するというキッチン。サラマンダやガス火やオーブン。今や多くのフレンチ店で使われる便利なスチームコンベクションは無し。「音と温度と香り、人の五感でなければ、本当の絶妙な加熱はできない」と話す田中シェフ。

まずは北海道の蝦夷鹿。塩をし寝かせた一片を火にかけます。その後、オーブンへ。取り出して休ませ、またオーブン。最後の熟成である「加熱」の工程を、肉質に決して無理をかけないように、休んでは加熱を細やかに繰り返すのです。最も旨味が高まる分岐点、その針の穴のような一点を誤差なく見極める。それは人間の技であって、高度なマシンの技ではない。そう示すかのようなシェフの妙手。

7割の加熱具合で取り出した鹿は、次にムース(バターの泡) をかけまわしながら、素材を包み込むよう余熱で火入れ。鹿は非常に淡白な素材。こうすることで、食す直前には鹿の旨味を油分が充分に引き出してゆくのです。

そこに併せるのは、鹿の筋や肉から丁寧に抽出した鹿のソース。一つの食材を解体し、また一つの器に還すかのような再構築。そして…

百合根や菊菜など、旬野菜のピューレも伴い、北国のジビエは心斎橋でフレンチの一皿になるのです。この季節の魅せ方、ストーリーの構築。田中シェフの綿密な演算と即興性そのものを体現する「蝦夷鹿のロティ、ユリネと菊菜のピューレ、ジュニエーヴルの香るソース」、完成です。

そして、こちら「天使海老の生ハム巻き カダイフフリット」にも、数々の妙手が秘められています。カダイフとはとうもろこし・小麦粉・塩を水でよく練り、糸状にしたもの。サックリとしたテクスチャーが、口の中で魚介の旨味を広げるのです。プラス、こちらは生ハムも巻いて、口に含んだ瞬間の驚きまで用意しているのですね。そして注目したいのが、器中央のソース。

この鮮やかなオレンジ色はソースクリュスタッセ。甲殻類のソースです。その源となるのが、寸胴で半日かけて仕上げる甲殻類のフォン(出汁)。取材当日も、このような寸胴が幾つか火にかかり、旨味の髄をゆっくりと抽出されていました。「鹿には鹿、甲殻には甲殻、牛には牛。メイン食材とベーススープを合わせること、どんなに手間がかかっても削れない工程です」と話す田中シェフ。ベーススープやソースは、常備20種は軽く超えるそう。

最後にご用意いただいたのが「パテ・アンクルート」。仏料理のシンボルともいえる古典的な一品。シェフたちの力量と仏料理への解釈が如実に現れる、定番であり伝説的なメニューなのです。今やこんなに手のかかる“前菜”を提供する店は数少なくなっています。「だから、作るんです」と話す田中シェフ。モダンやイノベーティブが先頭を走りがちなフレンチに、伝統の一隅を照らしたい。大切に受け継がれた家庭料理を、その源を、きちんと継承したい。そんな思いが込められる一皿。

パテの中身は、豚肩・豚バラ・フォアグラ・トリキモ・背脂。数ある素材の中で左記素材を取捨選択し、配分や調理法にも十二分に吟味を重ねた渾身の一品です。料理の世界に入り、11月に当店をオープンさせた田中シェフ。これまでの技法と感性と造詣の全てを注ぎ込んでいると言っても過言ではないでしょう。

そんな密度の高い料理の数々は、グランメゾン級のお仕事。にも関わらず、なぜ“バル”なのか?幅広カウンターが配される1階、全ての席から厨房が望めるゾーニング。ミニマムな空間に、香りや熱や音が弾む、静かな昂揚。田中シェフは、ゲストとの掛け合いで即興の一皿も紡ぎます。まさにフレンチの割烹。大阪…とりわけ、ミナミが誇る美食スタイル「割烹」そのもの。それを“バル”と変換する面白味がすごい!

さらに!面白味溢れるのはワインのシステム。
2階に設えたウォークインセラーにはソムリエールがゲストをご案内。なんと、価格は定価のままだというから驚きです。

かかるのは定価のワイン代+抜栓料金990円のみ。ワイン好きが唸るラインナップには、まだまだたくさんの秘密が隠されています。

さらに!1階エントランスすぐには、スタンディングのコーナーもあります。本来ならばボトルでしか提供できないようなグランヴァンを数種。一切の空気に触れさせず、温湿度を好条件のままで、30ccテイスティングから味わえるのです。

最後に質問です。なぜ、心斎橋で、ご自身のお料理を提供しようと思われたのですか?「料理をダイレクトに感受するには、絶対のリラックスが必要なんです。緊張を強いる雰囲気やシェフと直接話せないような環境で、美味しいもまずいもないでしょ。そういうものを全て排除したときに、スタイルはバル、ワインは定価、場所は心斎橋、これしかありませんでした」シェフにとって心斎橋とは?「大好きな街ですね!」田中シェフ、ソムリエールの長友さん、ありがとうございました!

  • アラカルト 620円~
    パテ・アンクルート 1,200円
    天使海老の生ハムとカダイフ巻き 2Piece 980円
    蝦夷鹿のロティ 時価
    各種ワインはグラス、ボトルと幅広くそろえています。
  • ※全て税抜き価格

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