2015.12.01

心斎橋で歴史を紡ぐ「ビストロ・ダ・アンジュ」

Store Info

「ビストロ・ダ・アンジュ」

2015年10月、フランスのタイヤメーカーが今年も関西の名店をセレクトしています。そこでコストパフォーマンスが高い、調査員おすすめのレストランとして3年連続で評価をうけているのが、ここ「ビストロ・ダ・アンジュ」。その評価を受けても1年で消えてゆくお店も多い中、3年連続とは大きな快挙なのです。ですが、そういった「記号」だけでこの店を語るのは、あまりにも軽率すぎる。コストパフォーマンスの本当の意味とは、もっと見えないものの中に秘められているのです。

このお店が心斎橋に誕生したのが1972年。それは、1981年にポートピアホテルでかの名店が誕生し、1975年にアメ村、1980年に南船場で革新的なフレンチが創業するよりも以前のこと。パリの下町のレストランを大阪に…そんな思いで開業した「ビストロ」スタイル。日本で初めてのビストロと言われるのもその由縁。ところ狭しと並ぶテーブルでは、ゲスト同士の肘が触れあわんばかり。このシチュエーションから生まれる空気感こそが「ビストロ・ダ・アンジュ」の魅力そのものなのです。

歳月を経て熟成を増したかのような店内には、あらゆるディスプレイが飾られます。銅の調理器具やミュシャのポスター、アンティークにヴィンテージの雑貨。これらは創業者様初め、仏へと渡ったスタッフさんたちが、ひとつずつ買い付けたもの。蚤の市の賑わいを感じられるシーンにゲストが満席となれば…そこは再現不可能な唯一無二の空間となるのです。

 

例えば荷物棚ひとつに、椅子の一脚に、つり下がる照明にも。どこかの誰かが大切に使ってきた手触りが宿り、この店に持ち込まれてなお役割を果たし続ける歴史の生き証人。人から人の手へ継がれるモノは、そのモノ以上の存在感でゲストにパリを魅せてくれます。

さらには…奥の壁面にびっしり掲げられる仏語のメニュー表。これらはパリだけでなくフランス全土に渡って、創業者様やスタッフさんたちが研鑽を積むために食べ歩いた証し。中には一生に一度は訪れてみたい老舗名店やフレンチの歴史を変えたと言われる神話的名店のものも。私事ですが、一枚一枚確認しながら手が震えるほどの一壁面でした。

さて、そんな「ビストロ・ダ・アンジュ」ですが、継がれるものは店内だけではありません。料理もその一つ。ここで揮われる技術はクラシカルで正統なフレンチのそれ…なのです。例えば「鶏肝と豚肉のパテ・ド・カンパーニュ」。手間のかかるこの一品は仏の伝統的料理。手と時間をかけても提供し続けるのには、「正統な仏料理を味わって欲しい」という矜恃の現れ。

もう一つの例が「仔鳩のロースト トリュフを使ったソースぺリグー」。仏伝統のレシピでは仔鳩のシヴェ(血)を用います。ただ…日本のここでそれをするとびっくりしてしまうゲストも多い。そのため、伝統の技法をそのままに、シヴェの量を調整するそう。それらのレシピ、マニュアル化はあえてしていません。そのワケは…後ほど。

とかくエッジを効かせた料理が先頭を走りがちなレストラン界で、継がれたものを守り、次世代に繋ぐという実直さ。2015年の今にそれをし続ける…ということは、並大抵の事ではありません。目新しい食材に流されるでもなく、オシャレな空間で小手先を振るでもなく、人の手を無数にかけて、本物を提供し続ける。「ビストロ・ダ・アンジュ」が継承し続けるものは、そんなレストランの文化。

だから、この店が何よりも力を注ぐのが「人の手」、すなわち技術であり人そのもの。技術を習得する課程で、習得したものの精度を上げたときに、そして習得したものを「誰か」に教え伝えるときに、技術と同時に「人」が磨かれる。そうやってスタッフからスタッフへ、40余年かけて、真価が継がれるのです。だから、マニュアルは不要。ここにはマニュアルを遂行するレイバーではなく、仕事を運ぶ「人」がいる、ということ。

そんな真価の担い手のひとり、中西シェフです。今年はパリで研修を積み、7月に帰国。中西シェフは言います。確かな技術は新しい価値を生む事ができる、それを実感したのがパリでの研修だったと。例えば、パリで最先端の「卵を使った料理」にも、古典とイノベーティヴが交差し、真新しい一皿を生み出していたそう。

さて、そんな中西シェフが、2015年のクリスマスに考案中だというお料理の数々を見せてくださいました。まずは前菜「オマール海老のアスピック ビーツのソース」。クリスマスカラーを思わせる一品は、提供された瞬間の「ハッ」する印象が圧巻。コンソメとトマトの酸味が華やかなスターターに。目の覚めるようなビーツのソースはフレッシュ感が舌を打ちます。

打って変わって、鮮やかな黄色で目を奪うのは「牡蠣 舌平目のちりめんキャベツ包み」。サフラン香り立つ白ワインソースは、ほどよく加熱を施した牡蠣にも、キャベツに包み込んだ淡泊な旨味の舌平目にもマッチする組み立てに。食感の妙や味覚の重層さに唸る…海の一品です。

お肉料理はジビエで。北海道のエゾシカは11/8に解禁になったもの。提供する際は約2週間の熟成をかけて、旨味を引き出します。さらには加熱による「最後の熟成」で、旨味を頂点に。この熱の入れ具合も中西シェフの妙技。最も美味しさを増す分岐点を逃しません。添えられるフォアグラを重ねて、ベリーのソースでひとくち…。ジビエ特有の野性味をここまでエレガントに仕立てるなんて。もう、味の説明に言語化が不可能です。ただ、これだけは言わせてください。もし、生まれて初めてジビエを食べるのならば、この一品から始めて欲しい、絶対!!

そんなお料理を引き立て、お料理に引き立てられるのがワイン。この店にはソムリエールの川西さんがワインをご案内してくれます。このフロアの地下にはセラーがあり、仏産を中心にその数600本!
「ビストロ・ダ・アンジュ」ではグループ会社に独自のポーター(卸しのこと)を持っているため、フランスの畑から直輸入をしているのだとか。生産者さんたちと直に対話を重ね、納得の「ビストロワイン」が適うといいます。

店内の壁面には、はるばる日本へ、そして当店へと足を運んでくださった生産者様のサインも。ここには、かつてこの店で腕を揮っていたソムリエの方のサインも同時に記されています。作り手と供じ手の厚い信頼関係が伝わってくるかのよう。それもそのはずで、現在ソムリエールを司る川西さんもワインに対する手厚い扱いに余念がありません。流通の過程で粒子の乱れた1本を15℃の定温で静かに眠らせる。時間をかけて、出荷した時の最高の状態をよみがえらせる。

そうやって、作り手の思いをゲストに届ける際にも、川西さんは細心の注意を払います。ゲストの好みと召し上がる料理、そしてワインのキャラクター。この3方向をどう集約し、1杯の提案につなげるか?声にならない要望もくみ取り、言葉を吟味し、ゲストとワインに素敵な出会いをもたらしたい。そして、いざグラスを口にする瞬間には「心配で心配で」遠くからでも召し上がる表情を見ずにはいられないのだとか。

 

これも「ビストロ・ダ・アンジュ」の魅力のひとつで、ネームバリュや希少さの「記号」を提供するのではなく、生産者やソムリエという「人」の仕事を提供するからこその「ビストロワイン」。WEBで拾ったウンチク以上に、人の手が作る価値は味わい深い…と深く納得するに違いありません。

さて、最後にご登場いただくのが、「ビストロ・ダ・アンジュ」を率いる山村マネージャー。この店が考える「人」の力、継承するべき文化など、お話を伺いました。スタッフ全員がオペレーターではなくプレイヤーとなるビストロ。そして、無数に重ねる見えない仕事の数々が、ゲストを能動的に楽しみへと向かわせる一軒。最後に店長様の言葉をお借りして…「スタッフと一緒に楽しい時間をお過ごしください」。

  • ◇アンジュコース 3600円
    ・フランス郷土のアミューズ
    ・前菜/メニュー又は黒板より1品チョイス
    ・メイン/メニューまたは黒板より1品チョイス
    ・デザート/1品チョイス(食後にメニューをお持ちします)
     ※デザートはハウスワイン200ccに変更も可能
    ・パン(お好きなだけ)
    ・食後のお飲み物

    ◇ビストロコース 4600円
    ※アンジュコースにお魚料理を加えた内容となります。

  • ※全て税込価格

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