2017.03.01

三津寺のこと。

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  • 取材地七宝山 大福院 三津寺
  • 住所大阪市中央区心斎橋筋2-7-12
  • 電話番号06-6211-1982
  • URLhttp://mitsutera.jp
    Facebook・インスタグラムは「三津寺」で検索。
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嫌なことだらけ。

自宅マンションのエレベーターで出勤時にいつも嫌な感じの男性といっしょになります。通勤の電車では隣に立つ人のカバンが大きくて邪魔で。出勤すれば、嫌味だらけの上司。ネチネチと絡んでくるクライアント。ランチで利用するお店は、いつも店員さんが愛想が悪くて、終業時刻間際に割り込んでくる新規案件。彼氏は既読スルー、友達も最近カリカリしてる。実母なんていつも怒ってる。家に帰れば、冷蔵庫から出したシラスを床に落としてばら撒いてしまい。

思い通りにならないことだらけ、です。思い通りにならないんです。だから苦しくて、辛くなる。だからといって気に入らないことを全て排除すれば、ワタクシは世界で独りになってしまいます。そんな折り、先日見かけた「三津寺」の外観に「絵写経」の案内が。さっそく取材に伺いました。

ご対応いただいたのは副住職の加賀さん。お坊さんって、もっと気難しい顔で難しいことを(それこそお経のような) 話す方々かと思っていたら…「絵写経を始めたのは私なんです」と屈託の無い笑顔!緊張がスーーーッと解けていきます。

そもそも「三津寺」とは、皆さまご存知の通り、三津寺筋と御堂筋の北東角に建つお寺。創建は744年というので1273年の歴史があります。みてください、これは山門から中を一望したながめ。まさに都会の中のお寺なのです。

右手前堂には、愛染明王さまが地蔵菩薩さまと弘法大師(空海)さまの真ん中に鎮座。愛情を尊ぶ「愛染明王さま」は明治維新の際の神仏分離令の発令時に四天王寺の生国魂神社内にあった持宝院から預かることで守ってきたんだとか。歴史を感じますね。そのように守られた「愛」の信仰に手をあわせるのも、女子的には興味しんしん。それだけではありません。

本堂の前に位置するこちらの灯篭には「波」や「海」を象った細工がほどこされています。実は三津寺というだけあって「津」つまりは、ここが海のすぐそばにあったことが伺えます。
そして、海の灯台の役目を果たしていたとおもわれるのが…

本堂の奥、裏堂に祀られる十一面観世音菩薩さまの素材となっている「楠」。1933年に御堂筋を広げるため切り倒された、元々三津寺境内にあったもの。
さらに、こちらの本堂は、もともと修行僧の道場であり修練の場、在家の方々が「拝む」場所ではなかったため、外から本堂内を見れるように壁が開く”人見堂”となっています。

その面影がこちらの覗き穴。こんなふうに、中の修行のさま子をのぞいた町民もいたことかと。この奥にある本尊「十一面観世音菩薩さま」は、このように普段は公開されていません。人見堂の外から手を合わせるのみなのかと思いきや・・・

山門横に本尊の十一面観世音菩薩さまと同じお姿の仏さまが祀られているのです。息を呑むような存在感。しかも・・・

夜に山門が閉まったあとは…なんと180度回転して、外部から覗ける窓にむけて仏さまを回転!加賀さんは言います。「いつでも本尊を拝めらるように、このような仕組みにしました」。

十一面観世音菩薩さまの足元には、般若心経を記したこんな仕掛けが。これはマニ車のように1回転させると、般若心経を1回唱えたこととされるそう。と、ここまできて疑問がひとつ。三津寺は「真言宗」であったはず。真言宗といえば密教…、もっと閉ざされたクローズドな世界かと思うのですが…?

「いいえ、三津寺は開かれたお寺です」と話す加賀さん。「多くの方に護られている格式を重んじながら、思い悩む人たちの傍にありたい、私はそう考えています」と。24時間拝むことができる本尊も、マニ車式の般若心経も、そのためのもの。かつて僧侶たちの修行の場であった三津寺を、一般の方々に開かれた「ちょっと、心を休める場所」へと推し進めているのが、当の加賀さんなのです。

その潮流は、加賀さんのお爺さまの代から始まっているそう。「彼は経営コンサルタントを辞めて、三津寺に入りました」そして、加賀さんご自身も…実は「寺を継ぐのが嫌で嫌で」と、なんともざっくばらんなお話に、ワタクシ興味しんしん!!興味のあった学問を深めるため、なんと京大工学部(!?)に入学。

そこで訪れた転機というのが非常に興味深い。加賀さんは京大生時代に、身体に障害のある子どもたちへのボランティア活動に携わります。そこで感じたのは、目が不自由・足が不自由というのは、こちらから見た一方的な解釈。その子たち親御さんから様々なことを学び、幸せな人生とは一体なんなのだろうか?その疑問に改めて直面したときに、生まれ育った仏門へと戻る決意を固め。そして三津寺に入ったのが約3年前。29歳の頃でした。

それからはお父さま(ご住職さま)と共に、三津寺を開かれた寺院へと。昨年は「お寺で謎解き脱出ゲーム」や「灯篭ナイト」、「冬の大懺悔祭り」と銘打ったファッションショーやステージイベントなども開催。さらにはこれまで非公開であった三津寺の仏像(大阪市指定文化財)を公開へ。多くの方々が山門をくぐり、ここに足を運ぶようになったのだとか。

中でも第2水曜と土曜に定期開催する「絵写経の会」は開催を重ねるごとに常連さまも増えて、お一人さまもグループさまも、大人も子どもも参加。しかも…この機会は普段は見られない本堂内の仏さまも拝める…貴重な機会でもあるのです。さて、先ほど覗いた向こう側、「絵写経」が開催される内陣へと・・・今回特別に入らせていただきます。

格子から注ぐ陽光が、あまりにも美しくて。まさに陰影の美!

見上げると、圧巻の格天井。描かれる草花やお野菜が鮮やかすぎるほど鮮やか。


欄間に描かれるのは、金の雲や水しぶきや花など、仏の世界。精密な造りやしなやかな曲線にしばし口をポカンとあけて見とれるほど。

そう、ひとことで言えば「絢爛」。加賀さんは言います。こちらが建てられたのが1808年。江戸時代末期は大きな争いもなく、比較的平和な時代であったと。その頃の金箔や彩色の技術の粋を集めたと思われるこの絢爛さは、当時、多くの方の帰依心が三津寺に注がれたと思われる、と。

仏像は中央に3体、左右に3体ずつ。本尊である十一面観世音菩薩さまや不動明王さま、弘法大師(空海)さまなど。近づいて細部まで観ることもできます。それにしても、ピンと張るこの空気感。心地のいい緊張は、弛緩していた嫌な心が浄化されるよう。

この空間で開催されるのが「絵写経の会」なのです。女性グループで参加される方々は、「これから心斎橋で女子会です♪」と、ほんとうに気軽に立ち寄られたり、ご自身の色ペンを幾種も持ってこられて、自分なりに楽しむ方もいらっしゃるそう。「気軽に参加していただけます」と笑う加賀さん。開催中は皆さん、精神を集中させて、清澄な静寂に包まれるのだとか。興味しんしん!

薄いグレーで象られた「懺悔文」(これまでの行いを振り返り反省するお経)や不動明王さまを筆ペンでなぞる作業は、決して難易度は高くありません。ですが、どんどんと雑念が払われ、精神が統一されていく。乱れていたリズムが整っていくような感覚。

アレが嫌、コレが嫌、なによりも自分が嫌、でもこれ以上自分は責めたくない、ツライツライ。そんな四苦八苦から少しだけ距離をとって、心を無にして、目前の作業に没頭。確かに、参加される皆さんが心地よく集中できるのがわかります。

加賀さんは言います。もともと写経というものはお寺にいけない方が、ご自宅で字を書くことで御勤めをしていたもの。悩み多い方のパンパンに膨らんでいる心に、空気抜きをするような作用があるのかもしれない、と。そんな一時が過ごせる「場所」が、ミナミの地にあることは、ひとつの「役割」であると。

3月には2回目となる「三津寺仏像郡 大阪市指定 非公開文化財 特別公開」を控え、4月からは護摩行や朝のお勤めに一般の方にもご参加いただく予定をしている三津寺。こんな寺院が、心斎橋の街にあったんですね。加賀さん、ありがとうございました!

  • 「絵写経の会」
    毎月第2水・土開催
    水曜日 17:30~20:30
    土曜日 14:00~17:00
    (8月は日程変更)
    用紙代500円~
    手ぶらで参加可能です。
    時間内の出入りは自由です。
    初めと終わりにお勤めをします。

    「三津寺仏像郡 大阪市指定 非公開文化財 特別公開」
    3/8(水)~3/13(月)
    13:00~16:00(入場は15:30まで)
    資料代100円(学生は無料(大学生・専門学校含む))
    ※各日14:30~学芸員の解説を予定

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