2019.03.01

三津寺で考えた。

Place Info

  • 取材地七宝山 大福院 三津寺
  • 住所大阪市中央区心斎橋筋2-7-12
  • 電話番号06-6211-1982
  • URLhttp://mitsutera.jp
  • Facebook・インスタグラムは「三津寺」で検索。

「私も」と私は言える?

性別の「らしさ」を問われ、また、それを引き受けてしまう「私」とは?そんな問いかけが止まない昨今。これは、学校とかSNSとか会社とか、自分が付属する何かの問題でもありながら、自分がどうするのか決めなければならないという、内省を含む問題でもあり。自身に天然にインストールされてきた価値観を一個ずつ検証していく作業は、思ったよりもなかなかにしんどい。ただ、もう性別の「らしさ」で何かを“雑に”話すのはやめよう、と思うのです。そして、その先は???

こちらは三津寺筋と御堂筋の北東角に建つお寺「三津寺」の「十一面観世音菩薩さま」。本尊は普段は公開されていません。だから、同じお姿の仏さまが山門横に祀られているのです。そして、この仏様は門が閉まれば180度回転。門の外からも格子越しに拝めるようになっています。

創建は744年。1275年の歴史をもつ「三津寺」。ご覧の通り、ビルの谷間に位置する都会の中のお寺。真言宗といえば密教…、もっと閉ざされたクローズドな世界かと思うのですが、そうではありません。

1回転させると、般若心経を1回唱えたこととされるマニ車があるように、広く一般に開かれた現在の三津寺。そんな「心斎橋の開かれたお寺」には、

この方。副住職の加賀さんがおられます。かつて僧侶たちの修行の場であった三津寺を、一般の方々に開かれた「ちょっと、心を休める場所」へと推し進めているのが、当の加賀さんなのです。加賀さんは「立ち止まることは大切なこと」だと話します。

「苦しさや理不尽さは取り除くことができない」けれど「それを糧にすることはできる」と。そのためにも、苦しさ、その感情を消化する「一時」が必要。溜め込みパンクしないために、皆様ご自分のための、その「一時」を何かの形で作りたい、そう思って始められたのが、

第2水曜と土曜に定期開催する「絵写経の会」なのです。もともと写経というものはお寺にいけない方が、ご自宅で字を書くことで御勤めをしていたもの。悩み多い方のパンパンに膨らんでいる心に、空気抜きをするような作用があるのかもしれない、と加賀さんは話します。

そんな「絵写経」が始まり、開催を重ねるごとにご参加される方が増え、お一人さまもグループさまも、大人も子どもも、幅広く。そしてご参加される方の中には、加賀さんにご自身のお話を打ち明けられる方もいらっしゃるそう。

と、いいますのも。加賀さんご自身が奇特な歩みを進んで来られたお方。実は「寺を継ぐのが嫌で嫌で」興味のあった学問を深めるため、なんと京大工学部(!?)に入学したご経歴!学び迷いの道を経て仏門に入られた方、つまりは私たちと同じように、迷い悩みを持つ方、だったのです。

そして現在。三津寺を「ちょっと、心を休める場所」へと推し進めると同時に、宗派を超えた若手僧侶たちが、皆様の仏教の疑問に応える「フリースタイルな僧侶たち」の活動の代表も務めておられます。仏教=実践哲学であること、それをより多くの方に体感してもらいたい、その一心だと話します。

さて「絵写経」に話を戻しましょう。開催されるのは本堂、仏像は中央に3体、左右に3体ずつ。本尊である十一面観世音菩薩さまや不動明王さま、弘法大師(空海)さまなどが祀られる静寂の空間。

見上げると、圧巻の格天井。描かれる草花やお野菜が鮮やかすぎるほど鮮やかに。こちらが建てられたのが1808年。江戸時代末期は大きな争いもなく、比較的平和な時代。その頃の金箔や彩色の技術の粋を集めたと思われるこの絢爛さは、当時、多くの方の帰依心が三津寺に注がれたと思われる、と加賀さんは話します。

「絵」というのは、理屈抜きで直感的に語りかけてきます。写経ではなく「絵写経」という体を選んだ加賀さん。この天井の下で励む「絵写経」は、なにも堅苦しいものではなく、ただただ描き書く「無」の一時となるのかもしれません。

薄いグレーで象られた「懺悔文」(これまでの行いを振り返り反省するお経)や不動明王さまを筆ペンでなぞる作業は、決して難易度は高くありません。それでも、ゆっくりと心が整っていく感覚。パンパンな気持ちに少しずつ隙間ができてくる感じ・・。

冒頭に戻りますが。もう性別の「らしさ」で何かを“雑に”話すのはやめよう。だからといって、すぐに答えを出そうとするのもやめよう。問い続けること、それ自体を大切にするならば、こんな風に心に休憩をとりながら、問いを持続する力を養う、それで今日のところはいいんじゃないかな。

そんな風に、いつの間にか自身と対峙する時間。自分を眺めていた「物差し」が突然小さく感じて、もう少し遠くからの視点で、長い尺度を眺める時間。それが「絵写経」によってもたらされる時間なのかもしれません。

悩みでパンパンに膨らんでいる心に、空気抜きをするような三津寺。そんな一時が過ごせる「場所」が、ミナミの地にあることは、ひとつの「役割」であると、加賀さんは話します。「どなたにでも門は開かれています、絵写経でお会いしましょう」。

  • 「絵写経の会」
    毎月第2水・土開催
    水曜日 17:30~20:30
    土曜日 14:00~17:00
    (8月は日程変更)
    用紙代500円~
    手ぶらで参加可能です。
    時間内の出入りは自由です。
    初めと終わりにお勤めをします。
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