INFO
2025.07.14
日本伝統のわらび餅から紐解く
憧れのお仕事「スイーツ開発」裏話
その舞台裏は壮絶&歓喜の連続!
宇治園(喫茶去)
スイーツ開発は憧れのお仕事♡
小学生の「なりたいおしごとランキング」の上位に食い込んでくる『パティシエ』。
好きが高じて憧れが実践へと移行したスイーツ系インフルエンサーも多々。
何軒も何軒も真摯に食べ歩き、感想をリポートし続け、独自の着眼や切り口が蓄積されると…
いつか自分の手でスイーツを開発してみたい
磨き続けた自分のセンスを世に問うてみたい
そんな夢を抱く方も多いことでしょう。でも、実際のところの「スイーツ開発」ってどんなもの?
そんな疑問を、宇治園2Fイートインスペース「喫茶去」の伊藤さんに伺ったところ…
「もう……うん、はい、それはもう……はい、大変です」と苦悩の表情を滲ませるのです。
今回の記事は「いつかスイーツ開発に携わってみたい」若い方やお子さんにも読んで欲しい、憧れ職業の裏話です。
そもそも宇治園とは?
さて。ここで喫茶去さんのおさらいです。京都山城にて1869年創業、現在は心斎橋に本店をかまえる老舗茶舗『宇治園』。
2階にあるのが「喫茶去(きっさこ)」と銘打ったイートインスペース。
店内意匠は日本を代表する芸術家「綿貫宏介」氏が手掛けていることでも知られています。
エントランスすぐのカウンター壁面にも作品が配され、趣きをもって客人を迎えます。
陰影が美しく映える店内は喧噪の商店街から一線を画す、非日常の空間。このフロアだけ時空が別次元の落ち着きです。
実はこんな細部にも匠のお仕事が。カウンターの側面部分に施される化粧のひとつにも美意識が込められて・・・
グリーンのガラス製ペンダントライトはどこかオリエンタルな雰囲気。趣きと遊びの効いた和の美しい空間、それが宇治園「喫茶去」。
喫茶去のスイーツ開発にゴールはない!
ここでの楽しみはもちろん、お茶を主軸としたメニューの数々。中でも硬軟自在に繰り出されるスイーツメニューは注目の的。そして、かき氷などのクラシカルな日本の甘味もあり!
スイーツ好きさんやスイーツ開発に憧れを抱く方にとって季節の訪れごとにパトロールしたくなる一軒。
ところが・・・
新メニューや季節限定メニューが随時更新されていくのは当然のこと。
定番で王道のメニューにすら改良点を見出しアップデートを継続していくこと。
それは「年単位」での移り変わりも視野に入れなければならない。
と話す伊藤さん。
つまり、喫茶去のメニュー開発に終わりはない!のだと。
王道中の王道、「わらび餅」を例に
その最たる例がこれ「わらび餅」。日本の甘味として古株5本指(注:ワタクシ調べ)にランクインする和スイーツですね。なんとこちらではお重で登場。フタをあけると…ん?ん?氷の山???
ひとつひとつに理由がある
氷の山をかき分けて出てきたのが「わらび餅」。最初のひとつは透き通るようにクリアなルックで、口に含むと柔らかな食感。ほのかに感じる甘みがなんとも優しい!
この優しい柔らかさの秘密は…、
➀注文を受けてから湯がいていること
②明治元年創業の「芭蕉堂」さんのわらび餅を使っていること
と教えてくれる伊藤さん。
続けて・・・
「時間差を置いたときに味や食感がどう変わるのか?を楽しんで」とおすすめ。
その通り、氷が溶けてくるころには、見た目は白濁し、弾力が増してより甘みの輪郭がクッキリと浮かび上がってきます。
「何を味あわせるのか?」がテーマとなる
わらび餅とは皆が良く知る日本の伝統的なお菓子。それでも、湯がきたてから温度の移行により「見た目も味わいもテクスチャーも変容する。この活きた魅力を一食のメニューでどう伝えるか?がテーマとなってきます」と解説する伊藤さん。
お重に盛られた氷の山は、
・わらび餅の温度移行を促すものであり、
・時間の推移を食べ手に可視化するものであった
という解説。ウーーーーーーーーン唸ります!
「どう味あわせるのか?」も大きなポイント
さらには、黒蜜をくぐらせて・・・
全体にまぶしつけるのは「ほうじ茶」と「黒豆きな粉」のミックス粉末。
このほうじ茶、宇治園さんが誇る「浅火ほうじ茶 火男 “ひょっとこ” 」を使用。棚式火入れ機で遠赤外線のじっくり焙煎。香ばしさも薫りも段違いの「ほうじ茶」。
その香ばしさが黒豆きな粉の香ばしさとも演算されて、無垢なわらび餅を味わい深く盛り上げる。
なるほど、ここに宇治園「喫茶去」ならではの味わいが宿る。
まさに、宇治園「喫茶去」ならではのアドバンテージ!
各素材の強みを熟知していなければ、開発はできない。
わらび餅にしても、黒蜜にしても、ほうじ茶にしても。
各素材の性質をどこまで熟知できているか?温度が変わったらどうなる?すり潰したらどうなる?果実と合わせたらどうなる?乳製品と合わせたら・・・・。
開発を始める以前に「知っておかなければならないこと」の連続。そして「きっとまだ、自分が知らない魅力があるはずだ」と、いつでも柔軟に問いが立てられる心のスタンバイも。
知識も技術も、そしてマインドも常々更新させていく、スイーツ開発の最前線。
ここまで伺うと、伊藤さんの表情は真剣そのもの。「お茶」の宇治園だからこそ、素材の魅力をきちんと際立たせるメニューには矜持がある。「映える/お洒落」だけで雑に片付けるなんて絶対できない。
無限の取捨選択から理と信条に沿った「理由のある選択」で合理的に。
味わうという本能に訴えかける「理屈を超えた選択」で創造的に。
ゴールはどこだ? 本当の試練はここから
実は、ここからがメニュー開発の「心臓」部分なのです。完成に導いた開発メニューのゴールは客席に提供され、味わってもらうこと。そのための仕込み工程チェック、使用道具のチェック、受注後の調理工程チェック、厨房内の導線チェック…etc。
1秒でも速く客席に届けるには「どうしたらいいのか?」
高い精度と安定感で再現し続けるには「どうしたらいいのか?」
開発段階はまさに理想を語る世界。
厨房オペレーション構築は理想と現実を最接近させるための、商品にとって「心臓」工程。
「ほんとうに苦しいのはこの工程です。理想を提供するために現実をどうコントロールするのか。どこまでの考量×考質であれば“妥協”ではなく“理に適った折り合い”となるのか。もっと単純に、私も含めた運営メンバーがどこまで頑張れるのか」
妥協なんてしたいわけがない、けれど、非現実的なことを追っても意味がない。そう迷う時、伊藤さんは敢えて重い方の道を選んできたそうです。
ゴールはここにありました。
伊藤さんは言います。
「私たちはいつもお客様と顔を合わせています、味わう表情が見られる環境にいます。これが最大の強みなんです」。ラッシュの最中にゼロから湯がく「わらび餅」も、満席のタイミングで皮を剝くことから始める果実メニューも、ギリギリまで最短で精度高く実現してみせると決意できるのは、味わう人を目前にしているからこそ。頑張れちゃうんですね…。
喫茶去さんが展開している商品群とメニュークオリティを鑑みてから奥の厨房をチラリと眺めると、そのコンパクトさに驚かされます。こんな小さな厨房から、こんなに幅と質の高いメニューが次々に出てくるのかと…。相当の定位置管理と相当の導線精査、相当の技能でもって、成し遂げている、かなりとんでもない偉業。
苦悩が歓喜に変わるとき
「季節商品をお目当てにご来店いただいたことが分かると本当にうれしいです」と話す伊藤さん。続けて「“わらび餅”のような定番商品を求めてご来店いただくのは、また違った嬉しさがあります」とも。
お茶と共にいつまでも伝えていきたい、日本の伝統的な甘味。
喫茶去での提供を支えているのは、これを味わいたいファンの方々と、クオリティ高く継続的な提供を適えている伊藤さんやスタッフさんたちの<双方・互換の協働>とも言えるでしょう。作り手あってこそ、食べ手あってこそ。
そんな食シーンを象徴する一品「わらび餅」をぜひ味わいに来てみてください♪
◆わらび餅/1,100円
ほうじ茶風味のほか抹茶もあり!
※金額は税込みです。